2017年2月9日   緊急意見交換会            「自立支援は誰のため?」  意見交換会の報告

 

この催しは、2016年3月に立ち上げた「総合事業がわからん」というFBページに、今回の登壇メンバーが投稿するようになったのが、そもそものきっかけです。そのうちに「和光市モデル」がページのトピックになり、メッセージグループをつくって情報交換と議論をしようという提案が中野智紀さんからありました。グループで議論をしているうちに、国が「自立支援介護」を推進し始めたので、「これは議論をもっと広げねば」ということになり、今回のイベントが実現しました。登壇者は、そのメッセージグループのメンバーです。会場からのご意見もたっぷりいただいています。

 

【第一部】

基調報告:「介護保険の理念と現実の歩み」 三原岳(東京財団研究員)

 

問題提起:発言1 「政府が進める”自立支援介護”の問題点」 浅川澄一(ジャーナリスト)

     発言2 「当事者のための自立支援とは」 鐵宏之(ケアマネジャー)

     発言3 「本人は何を望んでいるのか」 高木洋子(要支援当事者)

 ※当日は本人が体調不良で欠席したため、島村八重子(全国マイケアプラン・ネットワーク代表)が代読。

  合わせて、山形県在住の武久明雄(要介護当事者)のメッセージも紹介

     発言4 「診療現場における自立支援の光と影」 中野智紀(医師)

 

【第二部】

パネルディスカッション

会場との意見交換

 

●モデレーター:三原岳

●コーディネイト・司会:中澤まゆみ(ノンフィクションライター)

 

 

基調報告:三原岳(東京財団研究員)

 

中澤● 司会の中澤です。まずは東京財団研究員の三原岳さんから。「介護保険の理念と現実の歩み」と題して、基調報告的な問題提起をお願いします。今回は1人10分というとてもキビしい時間制限を設けていますので、時間超過しないようお気をつけください(笑)。

 

三原● 介護保険ができて17年。できた以前の措置の時代から関わっていた方は、多分、介護保険ができたころを覚えていらっしゃると思うのですが、介護保険ができてから参加された方は、意外とわかっていらっしゃらないという気もしています。なので、介護保険って何だったのだろう、そして、この17年、何が起きたのだろうということを話していきたいと思います。

 

といっても、空気や水のように制度がある中で、なかったころを想像するのはなかなか難しいので、ちょっと映画を取り上げます。1985年の映画『花いちもんめ』です。主役は十朱幸代さんです。旦那が西郷輝彦さん。西郷輝彦の実のお父さんが認知症になって入院するという場面があります。いわゆる昔の老人病院で、拘束もしています。こういう状況が、介護保険ができた1つの引き金でした。高齢者の尊厳、高齢者の人権が失われている。あるいは、病院でやると医療費になってしまうので、医療財政がパンクする。だから介護保険ができました。今日は財政の話をする時間がありませんので、高齢者の尊厳に着目したいと思います。

 

本人はこんなふうに右側は拘束しています。看護師は来るのですが、実はナースコールは切られています。こうした状況の反省に立ち、1994年12月に出された厚生省の高齢者介護自立支援システム研究会の報告書が示されました。これはネットでとれます。ご覧いただければわかりますが、社会的にも自己決定した支援が、高齢者になったら法的に一方的に処分を受けるのは成熟社会にふさわしくない。だから高齢者は自らの意思に基づいて自己選択することが大事であると書かれているわけです。これが介護保険のいちばん最初のスタートですね。

 

その後、96年4月に、老人保健福祉審議会という厚生省の審議会でも、高齢者自身の選択ということがまた書かれています。これが介護保険法に引き継がれたんですが、法律の文言というのはよくわからないので、私が意訳しました。「高齢者になったときに生じる心身の変化が引き起こす結果、要介護状態になったら、その人が尊厳を保ちつつ残された能力に応じて自立した日常生活を送ることができるようにするために相互に助け合う精神のもと、社会連帯のもとで介護保険ができた」ということです。ここでも「自己選択」という言葉は使っていませんが、尊厳、あるいは選択と言っているわけです。

 

介護保険法の規定でも、「被保険者の選択」ということが書かれています。何が大事かというと、それまでは市町村が一方的に、この人は介護が必要だからと、その人の状況とかニーズを勘案しながら市町村が行政処分を決めていたわけです。だから、一定の年齢を過ぎると行政処分の対象になると書いてあります。これが措置です。介護保険によって措置が選択に変わった。つまり、施しから自己選択に変わったということですね。

 

介護保険ではケアプランをつくり、介護事業所を使うときにも契約があります。以前は契約ではなかったのが、介護保険では契約になった。つまり対等な関係のもとで、高齢者が可能な限り自分で決めて選択して契約するという考え方に変わったわけです。

 

では、介護保険ができてから17年、どうなったのか。給付は、3兆6000円億から、9兆2000億・・・足元のデータでは10兆を超えると思います。つまり3倍に増えたということです。理由は明らかで、高齢者が増えれば要介護者が増える、要介護者が増えれば、介護給付が増えるということです。医療と違うのは、医療の場合は技術が発達して医療費が増えますが、介護の場合、高齢者が増えればその分、介護費用が増えるという非常にシンプルな理由です。だから、要介護者がどんどん増えている。

 

その分、保険料はどんどん上がっています。第1号被保険者は65歳以上ですが、65歳以上の方が支払う保険料は平均で5,000円。これは基礎年金から天引きされます。全国平均の支給額が5万円ですから、5万円のうち5,000円が天引きで抜かれている。75歳以上の高齢者はここからさらに5,000円、後期高齢者の医療費が抜かれますから、1万円ぐらい天引きされているわけです。

 

これをどうしますかという話です。つまり、介護保険としては、財政的にはかなりパンクしている状態なわけです。介護保険の財源はどうなっているのかというと非常にシンプルです。半分が税金、半分が保険料。税金は国と自治体が25%ずつ出して、保険料のほうは第1号被保険者22%、これは65歳以上の高齢者ですね。第2号被保険者は40歳以上で28%支出している。こういう構造なわけです。

 

さっき言った第1号被保険者が今、平均5,000円超えてきた、それをどうするかということです。しかし、介護保険は財政が非常にシンプルなので、考え方としてはもう余りないわけです。財源を増やすと言っても、財源を誰が増やしますか? 税金を増やす、保険料を増やす。あるいは給付を減らす。給付減らすとすると、何を減らしますか? これまでしてきた議論を踏まえると、軽度者の給付を減らす、家事援助を減らす、施設ケアや報酬単価を減らす。さらに自己負担を引き上げるというのもあるわけです。

 

そうはいっても、金をどこから持ってくるのかという議論があります。国民に消費税増税を求めるのは、政治家として選挙で負けてしまうリスクがある。保険料を上げるにしても、第1号被保険者の65歳以上を上げるのか、40歳以上の保険料を上げるのかという議論があります。

 

最近、政府が言っているのは、もう1つの選択肢、要介護者を減らすということです。介護予防によって、要介護者を減らすという話が始まったわけです。では、その選択肢を踏まえて、介護保険制度はどんな議論をされてきたのか。こんな感じです。介護報酬は基本的にマイナス改定が多くて、給付費をどんどん削るような改定がされた。一方で、支援の充実のほうも図られていて、低所得者向けの保険料の軽減などもなされている。削るだけではなくて、充実も一応なされているが、基本的には削る方向になっています。

 

最近議論されている、要介護者を減らすという議論の中でいわれているのは、保険者機能の強化です。介護保険の保険者は市町村で、我々国民が被保険者ですから、市町村の権限を強化することによって、高齢者になるべく要介護状態にならずに自立した生活を送っていただくための取り組みを進めているということ。これは私の考えではなくて、政府の文書に書かれています。あとから恐らく浅川さんが説明されますので、ここは省きます。

 

あとは総合事業。これは軽度者の給付をどう削っていくかの中で議論されていることの一貫だと思います。まずは保険者機能です。保険者機能という言葉は、経緯がけっこう曖昧です。もともとはアメリカの医療の分野で始まりました。医療の分野でもメタボ健診とか、レセプト審査で議論されたりして、非常に多義です。

 

給付を減らすというとき、多くの場合は、質、コストを下げることを目的にいわれるわけですが、質の向上も実は保険者機能に含まれます。あとは、インセンティブ(成績払い)の話ですが、要介護状態を3から2に減らしたら、報酬を上げますみたいな話があるのです。これを成績払いといいます。Pay For Performanceなどというのですけれども、医療では実はかなり進んできています。先進国では、34の成績プログラムがあるのですけれども、介護に関しては余りないような感じがします。

 

介護に関しては、どんな議論があるのかというと、岡山市を中心に「介護サービス質の評価先行自治体検討協議会」というのができています。要介護状態を改善したら報酬を増やすということを、制度として導入しようと自治体レベルで話し、厚生労働省に提言などもしています。

 

まとめに入ります。介護保険では措置の反省―高齢者の尊厳とか自己選択を損ねてきたという反省に立って、利用者の自己選択とか尊厳、あるいは今日、ここでは触れませんでしたが、市民参加とか地方分権、地域性を重視しています。でも2000年度以降、給付費は3倍に増え、保険料も上がってきているので、給付を減らすか財源を増やすかの対応を迫られている。

 

政府は政府で給付抑制を目指す制度改革に加えて、報酬のマイナス改定を続けています。さらに市町村を中心とした予防強化の議論も、この一貫として理解する必要があります。ところが、保険者機能というのは何かよくわからないので、もう少しよく詰めたほうがいいのではないですかというのが、私の考えです。

 

あとは介護については、インセンティブ、要介護状態を改善したら報酬を増やすという動きが自治体の中で進んでいるということですね。私の問題提起は以上です。

 

(発言1に続く ⇒ ホームの横にカーソルを当てると、コンテンツが出てきます)