発言2 鐵宏之                   (大樹ケアプランセンター新座・ ケアマネジャー)

 

中澤● では、問題提起のふたりめです。埼玉県新座市のケアマネージャー、鐵(テツ)さん。よろしくお願いします。

 

 ● はじめまして。埼玉県新座市でケアマネージャーをしております、鐵と申します。鐵という名字、全国で100名以下という、ポケモンでいうとかなりレアな存在だと思いますので、ぜひゲットしていただければと思いますので、よろしくお願いします。

 

埼玉県は今年度から統一した埼玉県の地域包括ケアシステムをつくっていくということで、その中に和光市の東内部長が入り込みモデル事業が始まりました。新座市はモデル4市のひとつですが、そこで自立支援型ケアマネジメントをやり出しています。毎月第3金曜日に新座市でやっていて、誰でも参加できますので、よかったら見てください。そこで感じていることをお話しします。

 

私は今まで、和光市は和光市で好きにやっていればいいのだと考えていたのですが、そうもいかない流れが起きてきています。1月29日に「平成28年度全国厚生労働関係部局長会議資料、厚生分科会老健局資料重点事項 介護保険制度の見直し、新規ケアシステムの進化、推進、自立支援、重度化防止に向けた取り組みの推進」というものが発表されまして、その中で適切なケアマネジメントの推進として、2,800万円なのですが、予算としてあげられています。

 

先ほどの三原さんの話で、保険者機能の強化が挙げられていました。今日は大分からの方がいらっしゃるのですが、この大分県を好事例として全国展開にしていく、ということがうたわれています。和光市の東内部長は、和光市を周りの自治体がまねするのだというように言っていますが、厚生労働省はこの和光方式をいよいよ全国的に普及しよう、という流れになってきているのかなと思っています。

 

自立支援介護型ケアマネジメントとは何かというと、厚労省はこのように書いていますが、東内部長の資料には定義がどこにも載っていません。強いていうのであれば、できない生活行為をできる行為にするということです。運動機能だけを回復させることが目標ではないと書いていますが、要はADLやIADLを向上させ、できないことをできるようにしようというのが結論かなと思っています。

 

先ほど浅川さんの話にもあった有名な和光市の地域ケア会議(コミュニティケア会議と言っています)は、聞くところによると、半年に1回ぐらいのペースでやっているそうで、市中心でやるものと、各地域包括支援センターで行っているものがあるそうです。

 

目的としては、ケアプランの調整支援とケアマネジメントの質の向上とされています。東内部長の資料には、「質の向上」と赤線で御丁寧に書いてあるのですが、その次に来るのが「給付の適正効果」です。具体的なコミュニティケア会議の内容としては、介護予防部会全県でやっていて、要介護認定の人に対しては、給付適正部会というような言い方がされているそうです。要介護度がなかなか改善しないケースを中心にやっていたりするそうです。あとは、権利擁護とか地域密着などがあるそうなのですが、やっているのかどうかは聞いていません。

 

和光市の地域包括ケア会議で使う資料はこれだけあります。利用者基本情報、生活機能評価や基本チェックリスト・・・・。新座市の地域ケア会議に傍聴に行くとわかるのですが、配付資料は1人当たり40枚以上あります。すごい量ですよね。その中で中心に使われるのは、生活行為評価表というものになります。特徴としては、ADLとIADL、△や×。△は改善の可能性が高いということや、×は全介助と書いてあるのですが、改善の可能性が低いもの。この△や×を○にするというのが目的で使われています。支援によって事後予測で○にしようというものになっています。

 

これは和光市の地域ケア会議の流れです。まずケアマネージャーが壇上に立ちまして、その両脇にサービス事業者がいて、目の前にT部長を中心に、理学療法士、作業療法士、栄養士、薬剤師等が囲んでいて、さらにその両脇には市内の地域包括支援センターの職員が並ぶというところです。

 

和光市の地域ケア会議で特徴的なのは、司会がケースの本質やプラン作成、サービス提供上の注意点について端的に言語化してまとめ、共通認識にぶれが生じないようにするというところ。それと、まとめの2分間のところにあるのですが、司会者は会議の最後に、次回までのケア(プラン修正)を含む方針を確認する。そして介護支援専門員の事業者等が当面行う必要がある課題について、ぶれないように、漏れのないように念押しするということになっています。

 

ここでの司会者は、和光市の場合は東内部長です。つまり東内部長が課題と感じたことをもとに、その地域ケア会議の内容を仕切っていく。ケアのプランの修正もそこで決めてしまうというのが特徴的になっています。昔、どこかでありましたよね。措置制度というのでしたか。なので、ケアマネージャーがいろいろ考えてきたこと、課題に思ってきたことをその場で話すこともなく、生活行為評価表のADL、IADLと、T部長の感じた課題のもとにプランを決められていってしまう。そんなことは全然ご本人はいわないのですが、現実的にそういう流れになってきていると感じるところです。

 

先ほどのとおり、ADLとIADLの変化に着目するということと、できていないことをできるようにするというのが目的になっています。ICFでいう「心身機能・構造」を重視しているというところで、本人にかかわること、生活歴とか個性といったことは、全然盛り込まれないです。

 

今回は少し事例を話したいと思います。W市で起こったある高齢者の出来事をまとめております。70代の男性ひとり暮らしで、要支援2の認定を受けています。脳梗塞の後遺症がありますが、ひとり暮らしできている方です。塗り絵が好きで、好きな食べ物はラーメン。1年前にとてもつらい出来事があったということでお話を聞いてきました。個人が特定されないよう、多少修正しましたが、この方は脳梗塞を起こして介護保険を申請されました。病院の人が申請をしてくれたそうです。退院してから、地域包括ケア支援センターの人が来てくれました。いろいろとアセスメントをしていったそうです。

 

ひとり暮らしで自宅のすぐ近くには急な坂がありまして、交通量の多い通りを渡らないといけない。買い物に行くにもお店までかなり時間がかかるので、ご本人は買い物に困っているのだということを伝えたそうです。右半身に麻痺が残っているという方です。ヘルパーさんという存在については、本人は知っていたそうです。しばらくしてから、地域包括の人が紹介して小規模多機能に通うことになったそうです。リハビリをしたほうがいいですよといわれたので、リハビリを目的に通っていたそうです。でも、買い物支援がなかったのです。掃除ができないし、片付けるのも大変だった。片麻痺があって、支援が必要なのに支援がなかった。

 

そこで、ヘルパーさんに手伝ってもらいたいというお話をあらためてしたそうです。すると、その小規模多機能と地域包括のケアマネはこう言ったそうです。「この町では、お掃除とか買い物でヘルパーさんは来られないのです。自費だったらいいんですけどね。自分で買い物に行けるように、リハビリを頑張りましょう」と。介護保険のことを知っている高齢者はそもそも少ないので、支援者側が言うままに、仕方なく自費のヘルパーさんを頼むことになったそうです。

 

その後、ケアマネは好きな食べ物についてもいろいろ言ってきた。塩分が多いから弁当にしろ、ラーメンは週2回にしなさい、何の具を食べたのか、どういうラーメンを食べたのかをメモにしなさいと言われたそうです。気づいたら、事細かに生活目標を書かれた表みたいなものを貼り出されていたそうです。すごいですよね。これをやっていれば、自立した生活が送れるようになると言って貼っていたそうです。

 

しばらくしてから、裁判所から保佐人のTさんという方が来てくれました。脳梗塞の影響で、高次脳機能障害が多少残っていたということや、家族もかなり高齢で余りかかわりがないというところもあって、和光市のほうで、手配をしたそうです。そのTさんは財産管理で来てくれたそうですが、収支を見て驚いたそうです。「Aさん、月に10万円もお金がかかっていますよ」と。何にかかっていたかというと、自費のヘルパーなのです。

 

この方は、いろいろな事情によってかなり収入が少ない方です。貯蓄はありましたが、このペースで10万円払っていたら破産してしまう。Tさんが地域包括と小規模多機能のケアマネに話をしたそうなのですが、それでも「和光市では買い物はできない」と言います。それで、Tさんは頭にきて、いろいろ交渉をしてくれたのです。介護保険でできないのなら、身障手帳があるのだから、障害のほうで買い物支援を入れてくれと。市はかなり渋ったそうなのですが、結果としては障害のサービスが入るようになり、お金の部分はどうにかなった。月10万円は2~3年続いていたようです。300万円以上を自費のヘルパーに使っていたのですね。

 

さらに小規模多機能のほうから、訪問が入るようになりました。ヘルパーなのかなと思ったら、和光市の場合、リハビリです。一所懸命やったけれども、なかなかうまくいかない。でも、職員は皆、頑張れ、頑張れといってくる。Aさんはとても温厚な方なので私も驚いたのですが、こんなことを言いました。「もう放っておいてくれよ。俺のことは構わないでくれ。こんなに頑張っているのに、まだやれというのか。落第でいい。弁当もやめて自分でやる。ご飯も卵かけご飯を食いたい。カレー食べたいし、ラーメン食いたいんだ。早く死んでもいい。俺の人生じゃないか」と。

 

こんなことがあったのですが、Tさんが間に入り、小規模多機能や地域包括の職員に「本人には本人の生き方があるのだから、それを任せてあげてくれ、尊重してほしい」と説得しました。サービス自体は今もいちおう続いているのですが、押しつけ的なところは収まってきたようです。今のサービスは、週2回の通所と週2回の訪問、障害サービスの訪問も続いています。

 

自立とは何でしょう。高齢になったり障害をもったら、できないことは増えていきますよね。熊谷晋一郎さんは小児麻痺を患い、その後、リハビリとかいろいろな体験をして、今も障害をもちながら小児科医をされたり、東京大学で先生をされている方です。その熊谷さんがおっしゃるには、自立とは「自分でできること」ではないと。健常者はいろいろなものに依存しているが、依存することでいろいろな選択肢が出てきて、それを使いこなせるのが自立なのだと。だから、「自立は自分でできることではなくて、依存先があること」なのだというのを、インタビューの記事に書かれておりました。

 

本人不在で「自立支援」が進んでいます。自立支援型ケアマネジメントが気をつけないといけないのは、押しつけになってしまうことです。行政や専門職が自立を決めて、押しつけになってしまうのが、とても怖いことです。我々ケアマネージャーは、ご本人の生き方を尊重した支援をします。それは御用聞きではないと思っています。そこに私たちの専門性があると思っています。

 

望む暮らし、生き方、死に方をかなえることが、今の自立支援型ケアマネジメントに果たしてできるのだろうか。私自身がとても危惧しているのは、この自立支援型ケアマネジメントによって、専門職間の分断が起きることです。ここにもしリハビリの方がいたら、大変恐縮なのですが、すでに取り込まれています。制度政策よりも、私たちが本来向き合わなければいけないのは何なのかを考える必要があると思っています。

 

自立という言葉は1人1人意味合いが違うものです。言葉にあらわしたものが生き方、望む暮らしではなくて、あらわせないところにその人の生き方があるのではないかなと私自身は思っております。

 

(発言3に続く ⇒ ホームの横にカーソルを当てると出てきます)